牽引治療の是非
牽引治療は私達の体をつくってきた重力とは正反対の力です。その適応症は限られるので、安易に、長期間、受けてはいけません。
腰の牽引治療
昔から腰痛を治すのに用いられてきた牽引治療。
これは骨の間隔を広げ、筋肉を伸ばし関節の安静を促すものと考えられてきました。しかし、この治療で腰痛が良くなる例もあれば悪くなる例もあり、適当か否かの議論なしに安易に治療が行われていることを、整形外科医が専門書で批評しています。
構造医学の立場から、牽引治療を整理してみたいと思います。
• 腰の構造
私達の腰は立って重力を真上から受けると「仙骨」という逆三角形の骨が骨盤にはまって、安定する構造になっています。この構造は先細のワインのコルクが、上から押さえるとはまり、引っぱると抜けるのと同じです。
• 牽引と仙腸関節の潤滑不全
腰の牽引治療は身長を伸ばす方向に引っぱるので、コルクにあたる「仙腸を抜く治療」ということができます。では、この牽引治療の特性と、2種類の仙腸関節のトラブルを照らし合わせてみましょう。
- 1• 牽引治療の不適当な場合
- 仙腸関節が「ゆるい」人を牽引すると、ゆるい状態は治るはずがありません。ゆるみをさらに増して悪化するので不適当です。この人には、仙腸関節を「しめる治療」と歩行が必要です。そして、ゆるみをつくらない生活指導が必要です。
- 2• 牽引治療が適当な場合
- 仙腸関節が「過剰に接触」している人を牽引すると、仙骨を引き抜く作用で腰痛は改善されます。ここで注意したいのは、必要以上に牽引治療を続けると、逆に「ゆるみ」の潤滑不全になって悪化してしまうということです。牽引治療の終了を見計らう医師の管理と判断が非常に重要です。
このように、牽引は私達の体をつくってきた重力とは反対方向の力なので適用が限られる上、安易に長期間受けてよいものではありません。
首の牽引
整形外科では首の痛みや手のしびれを訴える患者に、首の牽引を行います。これは重い頭による首への負担を減らそうというものですが、首も腰と同様に重力を利用して安定する構造になっているので、安易に牽引してはいけないのです。
首の骨は、積み重られる灰皿に似た形をしています。これは積み重ねることができ、上から重さをかければきちんと整列します。このような形の骨を7つ積み重ねたものが首です。上から頭の重さがかかることにより、首を整列させているのです。首の上に重い頭を乗せているのは、非常に合理的な設計なのです。だから首も安易に牽引してはいけないのです。
テーパー構造
テーパー構造とは、ワインの先細のコルクのように、押し込めば安定し、引き抜く力に弱い形状をいいます。
身近な例では「歯」の構造が参考になります。歯も同じようにテーパー構造をしています。歯の根が歯槽骨にはまっている形状は骨盤に仙骨がはまっている状態と似ています。食べ物をかみ砕く(押し込む力)に対応できる形です。
テーパー構造は牽引力には弱い構造です。歯や仙骨は、圧縮力には強くても引っ張る力に弱いのです。特に仙骨の場合は、それが重力に対応してできた形だからです。