首に異常が出る原因
肩のこりや痛みは、細い首に重たい頭を乗せているために起こる、などといわれますが本当でしょうか?。
朝起きた時首に違和感があるという患者さんに「その後も痛みが続いたり増したりしますか?」と問うと「起きて動いているうちに楽になる」と答える例がよくあります。これは頭の重さを受けながら二足歩行をしていると、首が良くなるという例です。
ナイル川流域には、20キロもの重さの水瓶を頭の上に乗せて運ぶ民族がいます。彼らに頭や首の痛みや肩こりが多いかというと、逆に非常に少ないことが疫学の調査でわかっています。
細い首に対して圧倒的に重たい頭をもつのは子供です。でも、肩こりを訴える子供は少数です。
整形外科では、首に異常があると、頭の重さを支える首の負担を減らす牽引治療をおこなうことがあります。しかし牽引治療でよくなる例ばかりではなく、症状が変わらない例や手がしびれ出す悪化例、牽引を中止したら良くなる例も整形外科医達は見て知っています。それならどの位の角度で何時間牽引したら有効になるのだろうかと研究を重ねています。しかし、先にあげた首に荷重がかかると良くなる例などを考えれば、牽引の是非について検討し直す必要があるのではないでしょうか。
体の設計には無駄がない
物質が滑らかに動くためには、「潤滑剤と重さ」が必要です。「重さがかかると摩擦が増して動かなくなる」というイメージがあるかもしれませんが、潤滑剤がある場合はそうとは言いきれません。
バナナの皮に足を軽く乗せるだけでは滑りませんが、体重が乗るとツルンと滑ります。また、緩やかな雪の斜面にスキーの板をおいただけでは滑りませんが、スキー板に人が乗ると滑りだします。このような経験は、みなさんもあると思います。
ヌルヌルとしたバナナの皮や雪は一種の潤滑剤です。それに重さをかけて圧縮すると、バナナの皮や雪の大量の分子(玉)がきれいに整列して、そろばんのようになります。だから、雪やバナナの皮に重さをかけると動くようになるのです。
ヒトの首は関節の軟骨や関節液という「潤滑剤」に、絶えず「頭の重さ」をかけて天然のそろばんを形成しています。つまり、重たい頭を首の上に載せているのは、地球の重力を利用した、合理的な潤滑設計なのです。何度も首を牽引すると首は動きにくくなります。それは、牽引で首にかかる重さを無くすと、「天然のそろばん」が徐々に消滅してしまうからです。
首の骨標本をじっとながめていると、ファミリーレストランなどにおいてある、スタックできる灰皿に似た形をしていることに気がつきます。この形は、下の器にはめ込みながら安定して積み重ねることができます。首はこれを7段重ねたものです。7段位であれば、その上に重たい頭を「おもし」として乗せればさらに安定します。これは地球の重力を利用した、合理的な安定設計です。
重力と牽引力は正反対の力です。首の牽引はその積み重ねを引き抜き、分離させてしまいます。首の骨の中を縦に走る神経も引き伸ばすため、神経の感受性が低下して痛みが感じにくくなり、一時的に辛い症状が軽くなったと感じる場合があります。しかし、さらに引っ張り続けると感覚がマヒしてしびれ出すこともあります。首は安易に牽引してはいけないのです。
重たい頭が細い首の上にある理由は、「首が動いて安定するため」ということになります。この設計は地球の重力に適応する合理的なものだからこそ、人類は500万年前からこの形を受け継いできたのです。構造医学ではこうした研究をもとに、牽引治療の概念をうち破る「頭軸圧法」を提唱し、首の症状に対して安全で、高い臨床成績を上げています。
首の異常の原因
首に異常が生じる直接原因と、体の他の部位からの間接原因に分けて説明します。
1 • 直接原因
- 長時間のうつむき姿勢 … 斜め前に傾く首を支えるために筋肉が張って疲労しますこの姿勢は、首の後ろにある関節に牽引力が働きます。筋肉疲労だけでなく、関節の破壊につながります。
- 頬杖 … 片手頬杖と両手頬杖がありますが、これも首に牽引力が働き、首の関節を徐々に壊すことになります。
- 交通事故やスポーツ外傷などの瞬間的な衝撃力が、首の並びをダイレクトに壊します。
- 枕があっていない、などがあげられます。
2 • 間接原因
完璧な耐震設計をしたビルでも、地下水の汲みすぎなどで地盤が傾くと柱が変形したり折れたりします。人の首と肩の異常発生もこれと同様に考えることができます。
- 骨盤が歪むと背骨が傾き肩の高さが違ってきます。するとその上に乗る首も傾き、首に歪みが生じて異常が出てきます。
- 肩関節は鎖骨で首の根本につながっています。肩関節に異常があると首の支点がずれて、首が傾き異常が出るようになる、などです もちろん、直接原因と間接原因が合併している場合もあります。